先日書いたNearshoringとはの続き。
この話題にこだわるのは、アメリカのテレホンサービスに何度もイヤな目にあっているからだ。いらいらする(Irritating)、頭にくる(Frustrating)などいろいろな形容詞を付けたくなるのが、アメリカのテレホンサービスなのだ。
昨年日本に一時帰国した際、妻の実家のPCの調子がおかしかった。コンピュータに詳しい人がいなかったので、Windowsのパッチをちゃんと当てていなかったのが原因だった。しかもかなり古いバージョンだったので、オンラインでパッチがうまく当たらなかった。そこでNECに電話して、いろいろ指示通りにやってみたのだが、結局うまくいかず後日サービスの人に来てもらった。このときは自動応答のメッセージなどなく、すぐにオペレーターにつながり、さらに適切な部署につないでくれた。これが本来のテレホンサービスというものであろう。
ではなぜアメリカのテレホンサービスがこうひどいのか?この問題の最大の原因はSPOC(Single Point Of Contact)という考え方がある。これは以前会社で講習をうけたITILのセミナーで習った言葉だ。これはヘルプデスクやテクニカルサポートなど、会社が提供するすべての電話受付窓口を一つにするというビジネスモデルである。
例えばComcastという昔ATT Broadbandと言われた会社がある。ケーブルテレビの最大手で、現在ではビデオオンデマンドや高速インターネットのサービスも行っている。細かいサービスまで入れるとその数は限りないが、電話による窓口は一つである。つまりこのSPOCからたくさんあるサービスに分岐をしていく。
一方でサービスの数はどんどん増えていく。またユーザーの数も増える。昔は東海岸、西海岸など地域別にしていたと思うのだが、今は全国同じ電話番号にかける。しかも24時間対応だ。つまりSPOCは1つにしたまま、入り(ユーザ)も出(サービス)も際限なく増え続けているのだ。常識的に考えれば、サービスに振り分ける部分がボトルネックになるのだが、これをコンピュータのプログラムで処理をしようというのがSPOCの考え方だ。さらにサービスの方はどんどんと細分化し、簡略化する。これによって発展途上国で安い労働者を雇っても、短いトレーニングで仕事を覚えることができる。つまりコストを抑えられるというわけだ。
すなわちサービスの品質のことは考えず(犠牲にして)、コストを減らすことだけを目的に発展してきたのが今のアメリカのテレホンサービスの実態なのだ。
今回新聞に出たNearshoringという動きは、「オペレーターの対応がひどすぎる」という顧客の文句に対応するものである。しかしそれは対応する人たちの「インド訛りの英語が聞き取りにくい」とか、「アメリカの事情を分かっていない」というもので、自動応答メッセージの部分に関するものではない。メキシコやコスタリカなど、人件費の安いところにコールセンターを移動することは、現在のモデルはそのままにして、インド人にやらせている部分を、「別の国の安い労働力」に置き換えているに過ぎない。SPOCをモデルにして、「人間は安い賃金で大量に雇う」という考え方がある以上、サービス振り分けの部分はコンピュータの自動音声メッセージが使われることには変わりない。
結局のところ、本質的な解決にはなっていないのだ。
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