「次から次ぎへといろんな言葉ができるなあ」と感心してしまう。Offshoreの次はNearshoreか。今日のSan Jose Mercury Newsのビジネス欄にこんな記事がある。
Moving tech support jobs closer
「テクニカルサポートの仕事を近くに寄せる」というのがこの記事。オフショアでインドに持って行った仕事を、メキシコ、カナダ、コスタリカなどアメリカの近くの国に持ってくる。これがすなわちニアショアと呼ばれる動きである。
国土の広いアメリカではとにかくいろんなことを電話で済ませなければならない。例えば病院の予約を取るのも、クレジットカードをアクティベートするのも、車の保険を利用するのも、あるいはPCの調子が悪くてサポートを呼ぶにも、まず電話をかける。そして例えばPCの調子が悪いときなどは、オペレーターの言われるままにPCをリブートしたり、コントロールパネルを開いて操作したりする。とにかくオンサイトサービス(係員が現地に出向く)はなるべくせずに、オンライン(電話での会話)ですべて済むように、徹底的にマニュアル化されたサービスを受けることになる。
その上で、会社(例えばクレジットカード会社や保険会社、PC、ケーブルテレビの会社)は、その電話によるサポートをまるごと海外に持っていく。顧客がアメリカ国内と思ってかけている1-800(トールフリー)の電話は、すべてインドに転送され、インドで雇われたオペレーターが対応してくれる。その方が人件費が圧倒的に安くて済むからだ。インド人のオペレーターは細分化された業務の1つだけを行うように教育されているらしい。そのために、電話をかけてから人が出てくるまでに非常に長い時間がかかる。例えばPCのサポートに電話をしてみると、まず最初は「英語なら1を、スペイン語なら2を押してください」とまず言語の選択が出る。次に「個人のお客様は1、法人のお客様は2」、そして「新規のケースは1を、すでに報告済みのケースの場合は2を」そして「PCの起動トラブルは1、ネットワーク接続のトラブルは2」・・・というように延々とメニュー選択を繰り返す。そうしてつながった先には、「ネットワーク接続トラブルに対応するトレーニングを受けた」オペレータがいて、彼または彼女がマニュアル通りに客にPCの再起動をかけさせたり、コントロールパネルの操作を指示しているのである。
実際に電話してみるとこのメニュー操作が面倒である。指示通り番号を押して行っても、「PC起動トラブルに対応するオペレーター」がふさがっている場合には、そこで待たされてしまう。不快に思って一旦電話を切って、また後日電話をかけて、ガイダンスメニューを聞かずに1、3、2、2、1・・・というように番号を入れる奴がいるのだろう。それを防ぐために「最近メニューの内容が変わりました」と毎回言ってくる。
私などはもう慣れて、「アメリカのサービスはこんなものだ」とあきらめて使っているが、アメリカ人の顧客にはいろいろと不都合が生じているらしい。それはインド人が使う英語のインド訛り。もちろんサポートに出てくるインド人は、アメリカ英語のトレーニングを受けていて、日本人の私などには分かりにくいのだが、ネイティブのアメリカ人にはそれでも変な英語に聞こえるようで、場合によっては話が通じにくいということが起こるそうだ。
というわけで、Intel、HP、Sunなどの企業では、メキシコやコスタリカ、カナダなどの近隣の国で人件費の安い場所を探して、インドに移したサポート業務をそこに移動し始めた。この方がインド人よりも英語が上手い人が雇える。また時間帯が顧客のいるアメリカと同じになって、客との対応もよくなるということだ。
ハイテク産業にとって、サポート業務は人手を使うため、もっとも経費がかかる部門でもある。しかし一方で顧客と直接対話する業務なので大切な部門でもある。経費を削るためとは言え、これを丸ごと地球のインドに持って行ったり、それがうまくいかないからと言ってまたメキシコやコスタリカに移転するというのはある意味すごい経営判断である。サポート業務がマニュアル化されているからできることなのであろう。
客の立場からしても、電話したらすぐに流暢な英語を喋る人がでてきて、相談内容を聞いて対応してくれた方がずっと良い。しかしコストがかかってそれが値段に反映されてしまうのは困る。こういうわがままな顧客に対応するのだから、ハイテク企業も大変である。
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