「ジョン・ミューア・トレイルを行く―バックパッキング340キロ」 加藤則芳著
そもそも登山をしない私がなぜこの本を買ったのか。去年ヨセミテに行ったのだが、JTBの日本語ガイド付きのバスツアーという、完全なお上りさん状態。しかも短期間にいろんなところに行くので、ヨセミテなど1泊しかしない。これからは自分で運転していく機会もあるだろうし、旅行記を買ってみようということで、Amazon.co.jpで本を購入するとき(いつもまとめ買いをする)に、この本を見つけて買ったのであった。
この本はどちらかというと「ついでに買った」方だったが、文句無く面白かった。まずJohn Muirという人は、1838-1914に生きた自然家。ヨセミテの自然を紹介し、アメリカの国立公園の基を築いた人である。もっともそんなことはこの本を読むまで知らなかった。San Franciscoに彼の名前を冠した道があって、そこを通ったことがあるくらい。彼はシエラネバダ山脈の、ヨセミテからセコイアに通ずる尾根を歩き、この道がJohn Muir Trailと呼ばれている。
このトレイル、全長340キロを著者が歩いた記録がこの本である。3章立てになっていて、第1章は1994年に著者が1人でトレイルに挑戦するも、荷物が重すぎ、靴擦れで足を痛めて途中でリタイアしてしまう。第2章は翌年の雪辱戦であるが、NHKのドキュメンタリーの取材として行われれ、見事成功する。第3章は実行しようという人のための情報が列挙されている。
まず印象に残るのが、アメリカ人の自然を大切にする心だ。国立公園は政府によって管理されているのだが、そこに入るのにはものすごく厳しい規則を守らなければならない。私がヨセミテに行ったときには、国立公園の中に1つだけあるロッジに泊まったが、この地域に入れるのは、ロッジに泊まる観光客のバスだけ。それ以外は麓にある駐車場に停めて、そこからシャトルバスで行かなければならない。そもそもこのロッジにしても、一般客が予約を入れることは非常に難しい。根性があればできるそうだが、ふつうはJTBのような大手の旅行会社のツアーに抑えられてしまう。需要があってもロッジを増設したりはしない。そこが日本とは違うところだ。
また熊に対する考え方も違う。ロッジのあたりも夜になると熊が出没する。しかし駆除もしないし保護もしない。「本来熊のいる場所に人間が入ってしまい、熊が野生を失うのは気の毒だ」というのが自然を愛するアメリカ人の考え方なのだ。熊は当然人間が持ってきた食料を狙ってくるのだが、それによって熊が野生を失うことを避けようとする。そのため、車の中に食料を置くことは厳禁である。テントにキャンプするときは、食料は特別に作られた金属性のコンテナに入れる。そうしないと、車でもテントでも匂いで食料をかぎつけて、車のトランクでもテントでも破ってしまうのである。
これがこの本の著者のようなバックパッカーになると、「カウンターバランス」という方法で食料を保存する。夜トレイルで寝るときはテントになるが、トレイルにはコンテナはない。そこで高い木の枝に、食料をぶら下げるのだとか。この枝が太くて丈夫だと熊が木に登って取ってしまう。細すぎると、熊はその枝を折ってしまう。そこで根元は太くて折れないが、その先に行こうとすると熊の体重に耐えられない(だから熊は怖くて枝を伝わってこない)という枝を選ぶのだそうな。
トイレ(排泄)した場合は土に埋めるが、それ以外のゴミや残飯はすべて持って帰らなければならない。簡単な洗濯はするが、風呂にも入れない。それくらい過酷なことをして自然を守っているわけである。
アメリカの国立公園で一番偉いのはレンジャーであろう。次がこの本の著者のようなバックパッカー。次が日帰りのハイキングをするような人で、その下に一般の観光客がいる。私がヨセミテに行ったときにも、その「大」自然に感銘を受けたが、それは広大な風景をみただけのこと。バックパッカーのようにその中に入らなければ、本当の意味での大自然を体験することはできないjのであろう。もちろん、それをする勇気はないが。
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