先週はJTBの「マウントラシュモアとイエローストーンを回るバスツアー」というのに参加してきた。天気に恵まれて非常に楽しめた旅行であった。4泊5日の中でたくさんの場所を見てきたので、順次レポートしていきたい。第1回は「マウントラシュモアとクレージーホース」
4泊5日とは言っても、こちらの旅行は現地集合・現地解散が基本である。日本人向けに売られているものだが、客となる日本人は全米中にいる。さらに日本からも参加する人がいるので、「東京駅に集合」というわけには行かない。今回はSouth Dakota州のRapid Cityにあるホテルが集合場所なのだが、集合時間が朝8時なので前の日に行って、そのホテルに泊まっておくしかない。さらに解散場所となるSalt Lake Cityからも夕方の飛行機に乗れるかどうか分からないので、後泊もする。ということで実質的には6泊7日の日程となる。
集合場所のRapid Cityからバスに乗って、30分くらい。今回の旅行の最初の訪問地がMt. Rushmore国定公園である。「ラシュモア山」と言っても知らない人の方が多いであろう。しかし、「4人の大統領の顔が彫ってある山」と言えば、一発で分かるのではないか。
すなわち、上の写真のある山である。左からGeorge Washington、Thomas Jefferson、Theodore Roosevelt、Abraham Lincolnの石像が山に彫られている。手前に見えているのは記念館の建物で、資料館、スライド上映のためのシアター、土産物・本を売る売店などがある。その建物の向こうには石像に向かって街道ができていて、両脇には50本の柱があり、それぞれアメリカの州の旗が掲げられている。その先には広場があって、記念撮影をする場所になっている。その広場はラシュモア山に向かってステージのようになっているのだが、さらにその向こうというか、下にもスペースがあり、そこは小さなステージを囲む半円形の野外劇場のようになっている。ここは「アメリカ」を象徴する場所ということで、7月4日の独立記念日に花火が打ち上げられるので、そのための客席なのだそうだ。
さて、このモニュメントはラシュモア山の石を切り出してこのような造形物ができているのだが、そもそもは観光客を呼ぶために作られたものだそうだ。何しろこのSouth Dakotaは全米で2番目に人口が少ない州で、周りは自然だらけで何もない。そこでアメリカ中から観光客を呼ぼうということで、4人の大統領が彫られた。始まりは1927年で、途中資金不足による中断があって、1941年に終わる。これは完成ではなく、未完成のまま終わりにしたそうだ。中心になったのは、Gutzon Borglumという彫刻家で、彼の死後息子のLincoln Borgrlumが工事を引き継いだ。ちなみにGutzonは息子の名前にLincolnとつけるくらい、Lincoln大統領が好きだった。
歴史には光があれば陰もある。Mt Rushmoreに彫られた4人は、アメリカ歴代大統領の中でも有名なヒーローである。しかしそれは、東部の白人アメリカンにとっての話であって、そう思わない人もいる。特に第3代大統領のJeffersonは西部開拓を始めた人で、Native Americanいわゆるインディアンにとっては「憎い相手」でもある。
そこで、Mt. Rushmoreから車で約20分のところにあるのが、インディアン側のヒーローのCrazy Horse(インディアンを率いて騎兵隊と戦った)の像が作れることになった。実際にこれを始めたのは、Mt. Rushmoreの大統領像と同じ1940年頃の話である。登場人物はKorczak Ziolkowskiというポーランド系アメリカ人。彼は1939年の東部のNew Yorkの彫刻コンテストで優勝して注目を浴びる。そこでMt. Rushmoreで大統領像を作っていたGutzon Borglumにスカウトされて、助手としてこの地にやってくる。そこでKorczakに会いに来たHenry Standing Bearというインディアンのリーダーに、「白人の大統領ではなく、我々のヒーローの像も作ってくれ」と依頼される。Lincoln Borglumと折り合いが悪かったKorczakは一旦東部に帰るが、第2次大戦後決心してこの地にきて、Crazy Horseの像を作り始める。
戦後だからそれ以来60年が経つのだが、像はまだできていない。上の写真で左にあるのがKorczakが作った小型レプリカ。右奥に見えるのが、実際に削られている山である。顔の部分ができたのは1993年。残念ながらKorczak氏はその前の1982年に亡くなっている。その後はKorczakの子供たちが遺志を受け継いで作り続けている。現在は顔と前方を指差す左腕の輪郭ができている程度である。このペースでは完成するのは50年後なのだとか。
最近アメリカでは、「とにかく白人の開拓の歴史は正しい」という考え方は見直されており、このような少数民族の記念碑にも政府が援助しようという動きになった。しかし、そうして政府の記念碑になることを嫌った製作者たちは、あくまで入園料と寄付金だけで工事を続ける道を選んだそうだ。ちなみにMt. Rushmoreの大統領の顔はそれぞれ高さが18メートルくらいなのに対して、Crazy Horse像の顔は27メートルもある。またがる馬ができると「世界最大の彫刻」になる。ただし、完成は50年後のことになるのだが。
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